人生の書

14、嘘っぱちの愛と、北野武と寺千代の想い


インターネットにこんな記事が載っていた。


北野武監督、ヴェネチア国際映画祭で「震災後、表面的なものばかりでイライラした」09月04日13時35分

 開催中の第69回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門に日本からは唯一の正式上映作品となった『アウトレイジ ビヨンド』(10月6日公開)の記者会見が現地時間9月3日に行われ、北野武監督が登壇した。本作は、2010年に開催された第63回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映された前作『アウトレイジ』(10)に続き、2作品連続の世界三大映画祭へのコンペティション部門正式上映という快挙となる。

  〜 中略 〜

  震災で撮影が一年延期されたことを振り返り、「震災で確かに映画の撮影は一年伸びた。震災後の一年間は、逆に自分は怒りを感じている部分があった。世の中、絆、愛、支えとか、表面的なものばっかりでイライラした。こういう時こそヤクザ映画を撮ってやろうとやる気が起きた」と心境を吐露した。

  レッドカーペットに登場した北野監督は、待ち構えていたファンたちから「TAKESHI!」と呼びかけられ、笑顔でサインや撮影に応えた。正式上映会後にはスタンディングオベーション、拍手喝采が起こった。興奮したファンからは「ブラボー!」の声が挙がり、北野監督が立ち去るまで拍手は鳴り止まなかった。

授賞式は現地時間9月8日(土)となり、受賞に期待が寄せられている。【Movie Walker】


  故、淀川長治さんは、武の映画が好きだったようだけれども、僕は正直それほど好きではなかった。

  けれど、彼を子供の頃からずっと見ていて、年を重ねるごとに人間としての魅力を感じる機会が多くなっていることも、紛れも無い事実である。

  最近で言えば、これは良かった。キムタクと武が出ていた何かのCMで、ロケ地は、先の震災で崩壊した東北のある街。

  瓦礫の山と化した街の中を、無言のままじっと立ち尽くす、北野武。
ふいに、

「海に行ってみようか」

と言って、キムタクに車を走らせて、海に向う。

  かつて、大波となって、この街を、人々を飲み込んだ、今は静かな海に向って、武は突然こう叫ぶ。

「ばかやろう」


  あぁ、この「ばかやろう」はほんものだな。演技じゃないなって、想ったのね。



 僕が、占い辞めたのは、やっぱりそう、あの震災のすぐ後に、世間が、マスコミが、愛とか、絆とか、支え合いとか、ここになって、急にそんなことを言い出したよね、僕は自分でも意味のわからない怒りが湧いてきました。

「そんなのあたりまえじゃない!」

 何を突然、そんなこと言い出したの。今まで、散々、頑張っているものを「あざけ笑う」ような、「陥れるような」「馬鹿にするような」ことを続けていたのは、どこの誰?
  僕は、世間でそうやって傷ついてやってきた者に、今までずっと、あなたらしい自信を、もう一度見直すように言祝ぎ続け、
「世の中はそんなもんだ」とか、「今ではそれが常識」とかいう者たちを、決して認めず、決して臆することなく、これまで生きてきました。

 だから初めは、この紫微垣のページも、他のサイトと同じように、震災で亡くなられた方のご冥福と一日も早い復興を願いますと、心からの祈りをそのまま書かせていただき、もしふたたび同じような天災に見舞われた時のための対策を、いくつも調べあげて、役に立つリンク先を掲載していましたけれど、あの渦中の中、僕はすぐにそれらのすべてを取り外したの。


  あの頃は、結婚したばかりで、妻がひと月の海外演奏ツアーに行っていた最中で、これから日本はどうなるか分からない。
  もし、日本国中が放射能で汚染されて、それでダメになるようなことがあったら、妻に帰って来るなと言い、僕はどこにも行かず、日本人としてこのまま死のうと思いました。
  「誰かを助けたい」「幸せにしたい」と思う中、自分だけが助かりたい、自分だけが、自分の家族だけが幸せになりたい、あとはどうなってもいい。そんな風潮が、あったのだということを、あの天災でいっぺんに知ってしまったのね。

  もちろん、そうでない人もいました。震災後、「いま、自分に何が出来るかわからない。それを教えてください」という仏様のようなお客様もいらっしゃいました。それで、私の心がまだ救われたんです。

  でもね、それまで私が、命を削りながら救ってきたもの、一緒に悩んで、苦しんで、乗り越えてきたものがなんだったのかと思った時、もはや占いなんかしたくなくなっちゃたのね。他の地域の原発を存続させるか、止めるかなんて、なんの興味も持たなくなってしまった。
  つい最近、紫微垣の塾生の方から、いただいたメールは、すごく共感するところがあって、『生きる』ってなんだろうね。幸せ幸せっていうけれど、みんな一体、何がどうなったら、幸せっていうわけ?って思っちゃったのね。

  それで始めたのが紫微垣。誰に来ていただいてもいいのだけれど、そのことが分からない方は、いらしてもすぐに辞めてしまいますよね。いらしたからといって、彼氏が出来るわけではないし、店の売り上げが向上するわけではありません。
 でも、私は「鑑定士になんかなるな。魂の救済者たれ」と言われた師匠の言葉を、今もあの時もずっと実践しているつもりでいますよ。

 北野武とは、立場も経験も、徹底的に話せば食い違いだって、たくさんね、たぶん出てくるんだろうけれども、それでもどこか根っこの部分はこの人とつながっている。今回のニュースで、ふとそんなことを想って書いてみました。
 

戻る